温泉天国ハンガリー・ブダペスト・セーチェニ温泉
その美しい街並みから、「ドナウの真珠」と謳われる、ハンガリーの首都ブダペスト。
水の都に、花の都...世界には、いろいろな代名詞を持つ都市がありますが、「温泉の都」という名の付いた街はここブダペストだけなのです。
1937年に、世界初の温泉学会が開催されたのも、ここブダペスト。世界中の温泉学者の合意の上に、「温泉都市」の称号を得たそうです。
100を超す源泉と約50の浴場を有するブダペストを始め、ハンガリーは全国に約140か所の温泉地が存在する、まさに、ヨーロッパ最大の温泉天国と言えるでしょう。
ブダペストに数ある温泉の中から、有名なものをいくつかご紹介いたします。

まずは、ヨーロッパ大陸最古、1896年から運行されている地下鉄に乗って移動しましょう。
この地下鉄は、街の中心デアーク広場から英雄広場に向かって真っすぐに伸びる、世界遺産のアンドラーシ通りの下を走っています。
レトロな駅の様子は、鉄道マニアにも大人気。ノスタルジックな旅を楽しめます。
これは、セーチェーニ温泉駅の看板です。
ハンガリー語で、fürdő(フルドゥー)が浴場という意味です。
駅構内に展示されているセーチェニ温泉の歴史を紹介するパネル。
このセーチェニ温泉は、1881年、ペスト地区初の温泉施設として、鉱山技師ヴィルモシュ・ジグモンディにより「アルトワ式(掘り抜き井戸方式)」を採用して作られました。
ただ、この方式では、年を追うごとに、温泉水の供給不足などの不備が生じたため、構造に改良を加え、1913年6月6日に現在の温泉の原型が新たに建設されたのです。
この温泉の建築費として、当時、約390万クラウンもの金貨が投じられたと言われています。単純に今のお金に換算しても、軽く2億円を超える金額...往時の感覚では、想像を絶する豪華さであったようです。
このセーチェニ温泉は、温泉やスイミングプールに、デイケアなどの機能も有しており、ヨーロッパ最大規模の温泉複合施設の一つに数えられます。
建物の床面積だけでも6,200平米以上あり、東西南北4つのエントランスを持つ、カマボコ型の回遊式建築。卵色の建物に囲まれた敷地内には、屋内外合わせて15もの浴槽があります。
温泉のボーリングの深さは960m。1日当たり76万リットル、73℃のお湯が湧き出しているそうです。家庭のお風呂で考えると、約3800回分、つまり1日で一般家庭10年間分のお湯が使われている計算になるでしょうか。
このお湯は、浴用はもちろん、多くが飲泉としても利用されています。
こちらは、セーチェニ温泉の正面玄関。
温泉とは信じがたいほど美しく豪華絢爛な面構えをしています。

唯一、温泉らしさを醸し出しているのが、庭園の両脇に配置された換気口から立ち上る湯煙でしょうか。
この何とも豪華なセーチェニ温泉には、躍動感溢れる彫刻や、美しく繊細なモザイク画などがあらゆるところに配されており、1冊の本にできるほどの見どころが詰まっていると言っても過言ではありません。美術ファンなら、温泉そっちのけで観賞を楽しめるほどです。
ドーム屋根の天井画まで、細かく飾られ、まるで、博物館のよう。
お湯も、美しい彫刻から注がれます。

炭酸水素系硫黄泉(含ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、炭酸水素塩、フッ化物イオン等)の湯の効能は、関節痛・関節炎、神経痛、怪我・術後の療養、胃腸炎・腎臓炎、呼吸器疾患などと言われています。
セーチェニ温泉中庭にある屋外温泉・プールです。
1年中入浴可能な屋外温泉には、雪が降ろうと霜が降りようと、その開放的な雰囲気を楽しむ人々が、思い思いの形で浮かんでいます。
日本人の間では、ぬるくて温泉に入った気がしないという声もよく聞きますが、その分、ゆっくりと浸かっていられるというメリットも。
もはや、セーチェニ温泉の名物にもなっている、温泉チェスです。ぬる~い湯に浸かり、日がなのんびり駒を動かしているおじさんたちを眺めていると、焦って過ぎていく日々がどうでもよくなってきたり。。。
おしゃべり好きなハンガリー人たちは、友人や家族と一緒に、温泉にのんびり浸かりながら、いろんなことを語り合っています。
ハンガリー流温泉の楽しみ方は、とにかくゆったり、のんびり。

セーチェニ温泉の営業時間は、朝6時から夜10時まで、好きなだけ温泉でゆっくりできますね。
もう一つのブダペスト温泉名物、その名も”Bambi(バムビ)”ドリンク。
温泉の地下水から作られた、オレンジ色の炭酸ジュースは、昔ながらの陶器製蓋の付いたガラス瓶に入っています。
50年代に人気を博し、今でも、懐かしい味として、温泉内の売店で求めることができます。
また、ハンガリーでは、温泉と医療が密接に結びついています。
医療機関に診察に行くと、症状によって温泉治療の処方箋が出されます。
その処方箋により、温泉施設の利用料や温泉治療費に保険が適用されるのです。

主な温泉施設では、医療部門を併設しており、温泉を使った様々な治療を受けることができます。
中でも見た目がユニークなのが、こちら、背骨の矯正治療。
肩まで温泉に浸かり、体重や症状に合わせて足に重りをつけて、首固定機にぶらさがるものです。
 → ゲッレールト温泉に続く

  撮影:JapHun MediArt、他ネットアーカイブ