温泉天国ハンガリー・ブダペスト・ゲッレールト温泉
ブダペストで最も美しいと言われている温泉が、このゲッレールト温泉です。
ドナウ川にかかる自由橋のブダ側、ゲッレールトの丘の麓にあります。
ダヌビウス・ホテル・ゲッレールトの中に併設されているこの温泉は、ヨーロッパでも珍しいセッセシオ様式(アールヌーヴォー様式)の壮麗な風格があります。
1917年に建てられたこの建物は、当時そのままの姿で、今も多くの温泉客を魅了しています。
正面玄関前には、飲泉場も作られています。
セッセシオ様式の内装、カラフルなモザイクタイル、大理石の柱、ステンドグラスの窓に彫刻まで全てが当時のまま。
ただ、第2次世界大戦の爆撃により、女性用風呂が破壊されました。

戦後の困難な時代から体制転換を経て、長い道のりを辿り、2008年にやっと総改修作業が完了したのです。
浴場には、ハンガリーが誇る窯元ジョルナイの陶器タイルが豪華にあしらわれています。
ハンガリーのセッセシオ様式は、このジョルナイを無しには語ることができません。
優雅な彫刻の織りなす曲線に、細やかなモザイクタイルの豊かな模様。。。
ティンテッドグラスを通してゆらぐ厳かな光の中で温泉に浸かる心地は、何とも贅沢です。
古典的なようでオリエンタルな独特の美しさこそが、当時のハンガリー国民の気概を表しているのでしょう。
ヨーロッパの中のハンガリーの独自性。自分たちのルーツ。そして、民族への誇り。。。そういったものが、ハンガリー・セッセシオに込められているのです。

この当時、ブダペスト市内を始め、ハンガリー各地に、ハンガリーのオリジナリティー溢れる建物が作られました。
ゲッレールト温泉は、そういった建物の中でも傑作の一つに挙げられています。
もう一つ、ここならではのユニークなものがあります。それは、なんと裸にエプロン!

ゲッレールトの内湯は、男女別で、裸、もしくは水着で入浴できるのですが、伝統的にはkötény(クテーニ)と呼ばれる前掛けを付けて入っていました。
男性用は、越中褌に似ているお尻が丸出しになる前掛け。女性用は、エプロンそのもの、首からかけて腰で紐を結ぶタイプでやはりお尻丸出しです。しかも、このエプロン、リネン製のため水に濡れるとすけすけです。
現在も、ブダペストでこのエプロンが使用されているのは、ここゲッレールト温泉とルダシュ温泉のみ。実際に入浴客を見てみると、水着5割、裸3割にエプロンが2割くらいでしょうか。プールを利用する人は水着を付けているし、マッサージを受けた人は裸だったりするので、あえてエプロンを着用するのは主に年配の常連客くらいだそうです。
そのため、このエプロンも、一時は、利用廃止が検討されていましたが、トルコ時代の伝統に由来し、創業当時から使われているということや、常連客からの反対もあって、何とか存続しています。
こちらは、美しい木製のキャビンが並ぶ脱衣所。
改修により、1917年当時の美しい内装が蘇りました。
温泉と言えば!の、マッサージルーム。
カーテンで区切られたキャビンの中で、裸でマッサージを受けます。
ハンガリー伝統の医療マッサージがメインで、治療のためにマッサージを受ける温泉客が多くいます。
こちらは、室内中央にある混浴の温泉プールです。
古代宮殿風の柱に囲まれたプールには、2階建ての高い採光式天井から光が注ぎ、開放的。
夏季には、屋外の入浴施設もオープンし、たくさんのお客さんで賑わいます。
その中でも、特に有名なのが、こちら波の出るプール。
1927年に増設されたもので、当時は、「何とも斬新!」と大きな注目を集めたそうです。
内陸国ならではの海への憧れの賜物でしょうか。
施設内の浴槽の数は全部で13。その温泉水は、ゲッレールトの丘など数箇所の源泉から供給されています。
この源泉利用は、15世紀のローマ帝国終焉時代の記述まで遡ることができるそうです。その後のトルコ占領時代も、ブダのどの温泉よりも熱く豊富な湯が湧く源泉として愛用されていました。17世紀には、泥浴場(シャーロシュ・フルドゥー)と呼ばれ、温泉水と共に湧出される良質の温泉泥が有名だったとか。

弱アルカリ性(含ナトリウム・カルシウム・マグネシウムなど)の温泉で、リウマチ、神経痛、循環器障害等に効能があるそうです。
 → ルカーチ温泉に続く

  撮影:JapHun MediArt、他ネットアーカイブ