ルーマニア・SIBIU(シビウ):「街の目」と呼ばれる窓
 トランシルヴァニア高原の南端に位置する古都、シビウ。カルパチア山脈から流れるオルト渓谷に臨み、東西の交通の要衝として栄えた、中央ヨーロッパ辺境の商業都市です。
 街の向うには、高く聳え立つカルパチア山脈が見えます。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%93%E3%82%A6
 シビウの発祥は、12世紀。当時、この地域を統合していたハンガリー王の要請により、ドイツからサクソン人が植民してきたことによります。
 農業中心であったこの地域に、サクソン人は商工業を持ち込み、街を発展させました。さらに、建築の分野でも高い技術を持っていたサクソン人は、美しい街を築いていきます。
 クルジ・ナポカやブラショフなどもサクソン人の手によって発展した街です。
 その中でも特に、中央ヨーロッパとバルカンを結ぶ最短距離にあったシビウには、15世紀頃からたくさんの商人が集まり、商業都市として大いに発展し、19世紀にはトランシルヴァニア公国の主都にもなりました。
 その後、美しい街並みが保存され、2007年には、欧州文化首都にも選ばれました。
 そんなシビウの旧市街は、丘の上にある大広場を中心に石畳の道や、急な石段、そして赤い瓦屋根の建物が中世の雰囲気を残しています。
 そして、シビウのトレードマークと言えば、この天井窓。別名、「シビウの目(たち)」と呼ばれています。
 本当に目のように見えます。
 この目の窓、あちこちにあります。
 屋根裏の空気口として作られたこの窓。
 街を歩いていると、まるで目に見つめられているような気分になります。
 特に旧市街に見られるこの窓。その昔、街によそ者が迷い込んだり攻め込んだりした時に、隠れてこっそりと監視するための「目」として、重要な役割を担っていたのです。
 まさに目の形をした「街の目」、ずらりと並んでいる窓は不思議な光景です。
 中には、お化けのような5つ目の屋根も。
 上から見ても、屋根は目だらけです。
 中世の面影が色濃く残る美しい街、シビウ。
 しかし、1980年代から2000年まで、旧市街はどんどんと退化。役所も国も、何もしない状況が続き、街は、崩壊の危機を迎えていました。
 そんな中、クルジ・ナポカで建築を学んだ1人の青年、Guttmann Szabolcs(左写真) が、縁あってシビウで仕事を始めることになりました。87年のことです。
 壊れていく古い街。建築家として、この街で仕事をすることは容易ではありませんでした。
 しかし、この街に留まり、機会を待ちながら、仕事を続けていたGuttmannさん。2000年の市長選挙で、1人の候補者の元へ、自身が設計した古都の修復計画を持ち込みます。
 そこで、Guttmannさんの計画の重要性が認められ、その後7年に渡る街づくり、遺産の修復が行われたのです。
 Guttmannさんは、美しいシビウを守り、そして2007年の文化首都選出に結び付けた立役者なのです。
 そんなGuttmannさんの暮らす旧市街の家も、自身が修復したもの。窓からは、美しい教会の塔が見えます。
 屋根裏の目の窓も、修復され、生きています。

 街を見つめ続けてきた「目の窓」。街のことを真剣に見つめ続けてきたGuttmannさんの意志と共に、これからもずっと、この街を見守っていくことでしょう。

  撮影:JapHun MediArt、他ネットアーカイブ